『キネマの神様』シリーズインタビュー/森本千絵さん(アートディレクター)vol.1

2021.08.05
インタビュー

『キネマの神様』プロジェクトに携わった方々から、映画、ノベライズの制作現場を伺う「キネマの神様」シリーズインタビュー第4弾。今回は本作でアートディレクターを務めた森本千絵さんにご登場いただきました。
(写真/(C)2021「キネマの神様」製作委員会)

撮影スタッフ、キャストの方に手渡す映画ができる前の台本カバーもデザイン。

——森本さんは書籍の装丁やミュージシャンのCDジャケットのデザインをはじめ、CMのアートディレクターなど幅広く活躍されていますが、『映画キネマの神様』にはどういった関わり方をされたのでしょうか?

森本……山田洋次監督のもと、映画プロデューサーの房さん、阿部さん、また宣伝部のみなさんからのご依頼に沿って、映画作品をより多くの人に観ていただけるように、宣伝したいことを可視化して、魅力的に伝えるお仕事をしています。有難いことに、宣伝部の方々とどんな媒体でどういった広告戦略をしていくか、コピーライターの佐倉康彦さんと一緒に最初の打ち合わせからアートディレクターとして参加させていただきました。

 ——具体的にはどういったものをデザインされたのでしょうか?

森本……主に新聞やポスター、パンフレットといったビジュアルとしてみなさんの手元に届くものをデザインさせていただきました。珍しいことに『キネマの神様』では、撮影スタッフ、キャストの方に手渡す映画ができる前の台本カバーもデザインしました。これはプロデューサーの房さん、阿部さんからの提案で、ここから関わらせていただくというのは、稀有なことだと思っています。
『キネマの神様』というタイトルのロゴは何案もつくって、山田洋次監督に見ていただきました。映画は監督の作品ですから、私の好みは別として、あらゆる可能性はすべてお出ししました。

 ——昔、助監督を務めていたゴウという男性を軸に、過去と現在が絡み合う本作ですが、森本さんは脚本を読まれて、どう感じられましたか?

森本……若い頃も年を重ねたあとも変わらずに、ゴウとテラシンの会話に出てくる「映画愛」が、強く意識に入ってきました。助監督時代のゴウが自分の撮りたい映画にわくわくしているところは、デザインに影響を受けていると思います。とはいえ、宮本信子さん、永野芽衣さんが演じられた淑子の一途な思いも胸に響いてきましたし、脚本で描かれたすべてが交差していますね。

わくわくするような仕掛けや、いつまでも記憶に残っていくビジュアルの雰囲気づくり。

 ——広告戦略を練られるうえで、本作はどういった方々にアプローチしようと思われていましたか?

森本……山田監督の作品はオールターゲットで考えていて、長年愛してくださっているファンのみなさんはもちろんのこと、できるだけ多くの方に観ていただきたい気持ちでいます。監督が撮られる本物の映画で、映画を観る喜びを知っていただき、映画という文化を残す使命感もありますね。
『キネマの神様』は映画愛を伝える作品ですし、監督が初めてご一緒する若い俳優さんも多い。松竹映画100周年記念の作品ということもあって、より若いひとに見てほしいという思いは強くあって、意識はしています。

 ——主演予定だった志村けんさんの四十九日を迎えた日に、志村さんへの思いと、代役を沢田研二さんが演じられることを伝えた新聞広告が掲載され、とても話題になりました。

森本……本来は2021年の春の映画公開に向けて、企画をつくっていましたが、コロナ禍となり、志村さんの訃報や公開の延期が決まるなかで、どういった広告を打っていくのか、こつこつと打ち合わせを重ねました。ポスタービジュアルなどの制作にも取り掛かっているなかで、最初にお披露目することになったのが、志村さんの四十九日の日に掲載された新聞広告になります。

 ——チラシを拝見すると、過去を演じるキャストの方と、現在を演じるキャストの方がうまく混じり合っていますね。

森本……過去と現在が融合して繋がり合うように、劇中の写真をただ並べるのではなく、それぞれのキャストが時を経たからこそ感じられるものを映し出せるようにコラージュしています。
 原作者のマハさんと脚本家の山田監督との間に生まれたものを、キャストの方が演じ、スタッフのみなさんが映画の「なか」の世界をつくる。私が関わるのは映画の外側の世界全般で、もうすぐ映画を観られるなあと人がわくわくするような仕掛けや、いつまでも記憶に残っていくビジュアルの雰囲気づくりを心がけています。みなさまの手元に届ける「映画の世界観」というプレゼントの包装をやっている感覚に近いです。

(『キネマの神様』シリーズインタビュー/森本千絵さんvol.2につづく。/インタビュー構成・清水志保)

森本千絵(もりもと・ちえ)
1976年青森県三沢市で産まれ、東京で育つ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。
2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」をモットーに株式会社goen°を設立。現在、一児の母としてますます精力的に活動の幅を広げている。

niko and...の菅田将暉・小松菜奈のビジュアル、演出、SONY「make.believe」、組曲のCM企画演出、サントリー東日本大震災復興支援CM「歌のリレー」の活動、Canon「ミラーレスEOS M2」、KIRIN「一番搾り 若葉香るホップ」のパッケージデザイン、NHK大河ドラマ「江」、朝の連続TVドラマ小説「てっぱん」のタイトルワーク、山田洋次監督『男はつらいよ50 お帰り寅さん』に続き、2021年夏公開予定『キネマの神様』の広告や劇中画を手掛けている。他にも松任谷由実、Official髭男dismなどミュージシャンのアートワーク、広告の企画、演出、商品開発、本の装丁、映画・舞台の美術や、動物園や保育園の空間ディレクション、最新作に青森新空港のステンドグラス壁画を手掛けるなど、活動は多岐にわたる。

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