『キネマの神様』シリーズインタビュー/房 俊介さん(松竹株式会社・映画プロデューサー)vol.1

2021.07.30
インタビュー

『キネマの神様」プロジェクトに携わった方々から、映画、ノベライズの制作現場を伺う『キネマの神様』シリーズインタビュー第2弾。今回は映画プロデューサーで、共同で脚本も開発された松竹株式会社・房俊介さんにご登場いただきました。
(写真/(C)2021「キネマの神様」製作委員会)

山田洋次監督の電話の声がすごくわくわくしたような、弾むような声だった。

 ——房さんと山田洋次監督は、松竹に入る前から深いご縁があると伺いました。

房……1995年に公開された『男はつらいよ 寅次郎紅の花』のロケ地が奄美大島で、ぼくの実家がやっているホテルにスタッフやキャストのみなさんが泊まられたのを機に、山田組とのお付き合いが始まりました。その翌年に渥美清さんが亡くなったのですが、山田組のみなさんが「寅さんとリリーは奄美大島のリリーの家で二人仲良く暮らしている」という思いから、毎年夏に奄美大島にお線香を上げに来られるようになって、そのたびに遊んでもらっていたんです。

 ——房さんはもともと映画がお好きだったのですか?

(C)2021「キネマの神様」製作委員会

房……映画が好きというよりも、山田組のひとたちを好きになってしまったんですよね。山田組のスタッフさんに不思議な魅力を感じ、ずっと憧れていました。別の仕事に就いていたこともありましたが、どうしても山田組で一緒にお仕事をしたくて、「なにかお手伝いをさせてほしい」と手紙を書いて、映画『おとうと」から山田組に参加させていただいています。

 ——山田監督とマハさんの対談がきっかけで『キネマの神様」のプロジェクトがスタートしましたが、房さんはいつ原作を知ったのでしょうか?

房……山田監督の記憶とマハさんの記憶がごちゃごちゃで曖昧になっているところがありますが、僕の場合、監督から『キネマの神様』という本があるから大至急手に入れてほしいという電話をもらったのが最初です。監督の声がすごくわくわくしたような、弾むような声だったので、「これはなにかあるな」と察しがついて、すぐに本屋を回って届けに行きました。

 ——原作を読まれて、房さんはどう感じられましたか?

房……原作は引き込まれる物語で面白かったのですが、この作品を映画にするのは難しいというのが第一印象でした。いろいろな映画の作品が出てくる小説なので、映画化には版権の問題も発生します。原作で肝になるブログを通して海外のひとと交流を持つ展開も、映画のなかでドラマとしてしっかり描けるかどうか気になりました。

“脚本がうまくできているから、ドラマがいい”というわけではない。

 ——映画化にあたり、まず脚本の開発の前段階でシノプシスをまとめられると伺ったのですが、これはどういったものになりますか?

房……最初から終わりまでのだいたいのストーリーをまとめたものを、シノプシスといって「キネマの神様」ではA4用紙で10枚ほどになりました。原田さんにはゴウのモデルになったお父様の話を詳しく伺っていましたが、シノプシスの段階で原作とはまったく変わってしまっていたので、原田さんにはシノプシスで一度、読んでいただきました。原田さんに「これはキネマの神様と違う」と言われたら、企画がダメになる可能性もある。どういう反応が返ってくるかどきどきしながらシノプシスを送りましたが、「本作はなんと幸福な小説なのでしょうか」と原田さんから長いメールのお返事をいただけて、監督と一緒にとても喜びました。

 ——今回、山田監督と朝原雄三さん、房さんの三人で脚本を開発されましたが、現場はどんなやりとりをされましたか?

房……ぼくはかれこれ13年ほど、山田監督が話すことを脚本に落とし込んでいく作業をしていて、監督に「ここを調べてきてくれ」と言われれば、調査をしたり、インタビューをしてきたりもします。「キネマの神様」に関していうと、基本的には山田監督と朝原さんがずっと話し込んでいて、僕が途中途中で質問をしたり、意見を言う感じですね。世代も違う三人での作業なので、できるだけ若い感覚を入れ込む努力はしています。

 ——脚本を作られる際に印象的だったエピソードはありますか?

房……準備稿の大詰めのときに、三人で完成に向けて一気に書き上げていく二泊三日の箱根合宿をしたんです。最終日の夜にいよいよ最後の一行を打つことができて、僕と朝原さんはお酒を飲んだりしてほっとしていたんですが、翌朝、朝食のときに監督が「昨日はまったく眠れなかったよ」って(笑)。シーン1からラストまで頭のなかでオールラッシュしたそうなのですが、「丁寧にきれいにハコにはまりすぎていて、この脚本はよくでき過ぎている」と、全部書き直したいと言い出しました。“うまくできているから、ドラマがいい”というわけではないって。まだ準備稿の段階だったので、どんどん直しながら最終稿へ進んでいくものなのですが、監督が気になるところは一回止めて、やり直すという作業を続けました。

(『キネマの神様』シリーズインタビュー/房 俊介さん第二回につづく。インタビュー・構成/清水志保)

房俊介(ふさ・しゅんすけ)
1984年 奄美大島出身。1995年 『男はつらいよ 寅次郎紅の花』の撮影で実家のホテルに訪れた山田組の方々に憧れる。2009年撮影の『おとうと』から山田組に参加。2010年から山田洋次監督宅に住み込みで、製作・脚本助手として山田作品に携わる。2021年公開予定『キネマの神様』が初プロデューサー作品。

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