房……リリー・フランキーさんが演じる出水監督が、助監督のゴウに「夕日を止めてこい」というシーンがあるんですが、本番の撮影でほんとに海に飛び込むくらいの勢いで菅田くんが海に走っていったんです。服が濡れても気にしない凄みのあるシーンが撮れていて、映画の取り憑かれたゴウの狂気が垣間見える。あとで監督が、そんな菅田くんのことを「ほんとに気持ちのいい青年だな」と言っていました。
「夕日を止めてこい」というのは昔の撮影所で本当にあったエピソードのようで、映画の過去パートでは、監督が大船の撮影所で経験したことや、先輩から聞いたことが盛り込んでいます。きっと若いころのゴウって、山田洋次青年なんですよね。もしゴウのように監督が挫折していたら、山田洋次青年は現代パートのゴウのようになっていたかもしれない。60年映画を撮り続けてきた監督が、映画に挫折してしまった山田洋次青年を描いているんです。

　——昨年からの新型コロナウイルスの影響で、撮影が中断されたり、本作は映画公開まで思いもよらない状況が続きましたね。

房……志村けんさんの死だったり、大変なことがありすぎた現場でしたが、沢田研二さんが引き受けてくださってほんとうによかったです。実は、志村さんにお願いする前に、沢田さんのお名前が候補にあがっていた時期がありましたが、沢田さんは映画にお出にならないという前情報もあって、キャストから外していたんです。状況が状況なので、チャレンジした結果、沢田さんの出演につながりました。
一見、違ったタイプに見えるお二人ですが、鋭い感性だったりまわりを包み込むような色気が、志村さんにも沢田さんにもある。ちょっと脚本を変えると、沢田さんのゴウが自然と立ち上がってきました。