最新刊『風神雷神』インタビュー vol.2

2019.11.07
インタビュー

「想像の翼を思いっきり羽ばたかせて好きなように書いていった」とマハさんが語る最新刊『風神雷神』。作例に隠された秘密に思いを馳せ、時代考察を重ねた末に描いた俵屋宗達の半生は、ジュブナイル小説のような煌めきがある冒険譚に仕上がりました。

宗教やアートへ混じり気のない愛情を注ぐ少年たちから紡ぎ出される物語

 ——かつて南蛮寺で西洋絵画を目にしていた宗達は、いつかもっとたくさんの南蛮の絵画を見て、それを超える「おのれの絵」を描きたいと切望していました。「西洋のアートが宗達の作風になんらかの影響を受けたのだろうか?」と、マハさんのイマジネーションから始まった本書から、読者の私たちまでもが想像力を掻き立てられました。

 安土桃山時代の人びとがルネサンス時代のアートを見ることは、状況的に難しいのですが、以前、京都の細見美術館の細見良行館長と対談した際に、細見館長が「ヴァチカンの美術館やシスティーナ礼拝堂でミケランジェロの作品を見たときに、ミケランジェロの天井画と琳派の作品が持つ優雅さと繊細さに一致点があるような気がする」と仰ったんです。
 確かにルネサンス以降、聖なる存在であるキリストが理想化された美しい人物像として猛々しく描かれていますし、宗達の「風神雷神図屏風」も筋肉隆々の神様として存在している。世界史的にぐっと引いて俯瞰してみると、ほとんど接触したことのないイタリアと日本の美術シーンで人間回帰、自然回帰が花開いていたというのは、神様のいたずらのようにも思えます。

 ——宗達の秘めた思いが叶う形で、織田信長からある密命を受け、彼は有馬のセミナリオで絵などを学ぶことになりますが、ついには原マルティノたちとともに天正遣欧使節の一員として派遣されました。いま明かされている歴史の事実の合間を縫って、ここから物語はさらに大胆な展開を見せますね。

 宗達が生きていた時代を考察していくうちに、実際に天正遣欧使節がルネサンス時代のイタリアの様子を見ていたことにたどり着きました。宣教活動が認められていた時代から、禁教令が敷かれるようになる激動の最中、長い歴史のほんの十年くらいの間に歴史の奇跡としか思えない出来事が実際に起こっていた。若桑みどり先生の名著『クワトロ・ラガッツィ』を読ませていただいたら、天正遣欧使節の少年たちの姿がとても興味深く、「ピュアな心を具現化したようなマルティノと俵屋宗達が友情を育みながら、もしルネサンス時代のイタリアに降り立っていたとしたら、ものすごい冒険になる!」と私の妄想を膨らませていきました。
 もちろん、99.9%、そんなことはなかったに違いないのですが、歴史のなかには必ず0.1%の可能性が残されていますし、そこがフィクションを作る面白さでもあります。

 ——信仰心はないものの絵への情熱を絶やさない宗達と、純粋な心で信仰を続けるマルティノは、互いに相容れないところがありながらも、次第に心を通わせていきます。瑞々しい感性を持つ二人のやりとりからは、少年たち特有の未来への可能性に満ちた輝きを感じました。

 読者のみなさんはきっとマルティノの視点に立って、彼らと一緒にイタリアへの旅をされると思います。500年前、無垢な心を持った少年たちが、ローマ法王へ謁見するということにどれほどの誉れを感じていたのか。14歳から17歳くらいの多感な時期に、宗教やアートへ混じり気のない愛情や尊敬の念を抱いていた少年たちから紡ぎ出される物語には、誰もが興味をそそられるものがありますよね。

(インタビュー・構成/清水志保)

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