ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」デザイナー・伊藤ハンスさんインタビュー vol. 3

2021.10.29
インタビュー

 「モードとアートと物語の融合」をコンセプトに、マハさんとデザイナー・伊藤ハンスさんが立ち上げたファッションブランド「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」(エコール・ド・キュリオジテ)。舞台「リボルバー」でコスチュームを担当したハンスさんに、制作現場のお話から本ブランドの今後の展望まで訊いた特別インタビュー最終回。

(ÉCOLE DE CURIOSITÉSの21AW collection "Lucie"より、今シーズン、フォーカスしたルーシー・リーにちなんだエプロンドレス《LUCIE》。服すべて/ÉCOLE DE CURIOSITÉS、撮影/Kasono Takamura)

よいうつわを手にしたり、口にしたときの感覚を、服のテクスチャのなかに投影した。

 ――ふだんの「エコール・ド・キュリオジテ」での服づくりと、舞台でのコスチューム制作とでは、どういった違いを感じられましたか?

ハンス……「エコール・ド・キュリオジテ」の服づくりでは、マハさんが描かれたストーリーはあるものの、いろいろな人種、年齢、ライフスタイルを持つ顔が見えない幻のキャラクターのようなものを想像しながら服を発信しています。でも舞台では、具体的にキャラクターを提示されて、彼らが発するセリフもある。時代感や与えられたエレメントを呼応させたうえで、より役者さんの輪郭がビビッドに浮き上がるようにする作業は、ふだんの服づくりとは違ったアプローチでした。

 ――2021年の秋冬コレクションがスタートしました。今シーズンは陶芸家のルーシー・リーをフューチャーされています。

ハンス……今までペインターの物故作家をテーマにすることが多かったのですが、今回、陶芸家を選んだことは新しい試みです。マハさんがルーシー・リーの作品をお持ちだったので、実際にフューチャーする作家の作品を触って感じて、具体的に服をイメージできるのはよかったですね。

 マハさんが書いた物語のなかに、「うつわのかたちは創った⼈の⼿のかたち。触れることでその人と⼿を重ねている」という素敵な表現がありました。いまはコロナ禍で、ひとが離れ離れになってしまう厳しい時代ですが、よいうつわを手にしたり、口にしたときの感覚を、服のテクスチャのなかに投影したいと思いました。

 ――ピンクは春に着る色というイメージがありますが、今シーズンのコレクションでは気持ちが明るくなるようなピンクの服も発表されていますね。

21AW collection "Lucie"より、カシミア混の柔らかなウールで、軽さと暖かさを兼ね備えたニット《KATE》。(服すべて/ÉCOLE DE CURIOSITÉS、撮影/Kasono Takamura)

ハンス……マハさんのお持ちの器がきれいなピンク色だったこともあって、今回、初めてピンクの服をつくりました。独特の濁りもあるピンクを探して、パリの構内が真っピンクの駅でずっと天井を見て、このへんのグレイっぽいピンクはどうかなと吟味しました。
 みなさん、この色は似合うとか似合わないとか、色に対する意識をお持ちだと思いますが、新鮮な色だけど着てみたら、似合っていたと思われるようなものを提供するのが、良いプロダクトを作ることなのではないかなと思っています。

服も肌につけるものだと捉えて、どういう経緯でつくられたものなのか吟味して選んでいく。

 ――早くも2022年の春夏コレクションの立ち上げの時期だと思いますが、今後はどういった展開をお考えですか?

ハンス……目まぐるしく変わる世界の状況のなかでも、根源的な人の営みはきっと変わらないとどっしりと構えて常に変わらずに、それでいて常に変わり続けたい、というアンビバレントな気持ちがあります。
 ファッションというのは半年、一年とリードしながら、みなさんに提案していく仕事ですが、複雑な構造のなかでファッションができることは一体なんなのかをずっと考えながら提案しています。もちろん喜びを持ってつくっていますし、みなさんにもそういう気持ちで着ていただくのは大前提ですが、SDGs(持続可能な開発目標)というのはブランドのローンチのときから考えていて、消耗品であるというのが服の宿命ではあっても、その先のことまでつくる側も着る側も意識していたいです。

 ――エコールのパンツではあえてジッパーを使わずに、交換ができるボタンを使われていたり、服ひとつひとつからもそういった取り組みが感じられますね。

ハンス……SDGsは難しいテーマなので、ここでは簡単にしか語れませんが、天然素材をできる限り使い、ローカルなものづくりを徹底しています。生産背景までみなさんに知っていただくほうが、きっとより意識が届くはず。口にするものと同じとまではいかなくても、服も肌につけるものだと捉えて、どういう経緯でつくられたものなのか、エコールに限らず、厳選していただけるといいですね。厳しい競争世界のなかで僕たちも必死になってものをつくっていますが、よいものには必ず裏付けがある。その裏付けがあれば存続可能だと厳しく自分を戒めながら、提案することの楽しさと責任を感じているところです。

(インタビュー構成・清水志保)

伊藤ハンス
パリのモード専⾨学校 “Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne” を卒業後、「メゾン マルタン マルジェラ」のアトリエ勤務を経て独⽴。2016年、エコール・ド・キュリオジテ」クリエイティブ・ディレクターに就任。(撮影/ZIGEN)

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式HP
https://www.ecoledecuriosites.com

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式インスタグラム
@école_de_curiosités

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