ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」デザイナー・伊藤ハンスさんインタビュー vol. 2

2021.10.25
インタビュー

 アートを題材にしたマハさんのオリジナル掌編をベースに、伊藤ハンスさんが服をデザインするファッションブランド「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」(エコール・ド・キュリオジテ)。ブランド設立から五年が経ち、アートファンからも愛される本ブランドの服づくりへのこだわり、そしてハンスさんがコスチュームを担当した舞台「リボルバー」にも触れた特別インタビュー第二回。

(21AW collection "Lucie"より、シングル仕立てのチェスターテディーコート《COPER》。フランスの50年代のヴィンテージの角ボタンを使用。服すべて/ÉCOLE DE CURIOSITÉS、撮影/Kasono Takamura)

「どこに着ていったらいいんだろう」と思われない服に落とし込む工夫。

 ――実際に「エコール・ド・キュリオジテ」の服を手に取ると、上質な生地だからこその重厚感がありますが、着てみると思いの外、軽さを感じることに驚きました。

ハンス……「ゆとり」という言葉がフランス語にもあって、着心地の良さはゆとりからくるんですよね。服を着ていて一番、重さを感じるのが肩の部分ですが、肩から腕、背中にかけてのゆとりをどう捉えるかがとても重要です。エコールの服はビッグシルエットと言われることもありますが、服の形に体を収めるのではなく、あくまでもみなさんのシェイプにまとうように着ていただける服を意識してつくっています。

――ふだん使いしやすいパンツスタイルから、さらりと一枚でドレスアップできるワンピースまで、服選びが楽しくなるラインナップが揃っていますね。

21AW collection "Lucie"より、リミテッドエディションのワンピース《LUCIE》を同系色のレイヤーで楽しむ着こなし。(服すべて/ÉCOLE DE CURIOSITÉS、撮影/Kasono Takamura)

ハンス……色やシェイプにこだわり、みなさんに特別なものに感じていただけるアイテムを用意していますが、「どこに着ていったらいいんだろう」と思われない服に落とし込む工夫はしています。昔はTPOに合わせた服装のコードが厳密でしたが、いまはボーダレスになっていますし、みなさんご自身で考えて感じていただき、日常のなかでエコールの服を着ていただいたら嬉しいです。フィットもよくて気軽に着られる日常着はたくさんあると思いますが、エコールの服を着ると、贅沢で豊かな気分になれると感覚的に感じてもらえたらいいなあと思っています。

コスチュームに目がいかないくらいに、服をキャラクターに溶け込ませていく。

 ――マハさんが原作、戯曲を担当した舞台「リボルバー」で、ハンスさんは舞台コスチュームを担当されました。原作小説と戯曲を読まれて、どう感じられましたか?

ハンス……以前、マハさんが書かれた『たゆたえども沈まず』の取材に同行させていただいていたので、ゴッホという作家には僕もシンパシーがありました。マハさんが新しい角度からゴッホをどう描かれるのか、とてもわくわくしながら原作を読ませていただきましたが、ミステリの要素も加わって読み応えがあり、ゴッホとゴーギャンとの関係も浮き彫りになっていました。
マハさんにとっても新しいチャレンジだった戯曲のほうでは、空間芸術と時間芸術でもある舞台に合わせて、原作から巧みにアレンジされていて、登場人物もシェイプアップされていた。小説と戯曲の両方を読ませていただいて、ものすごく濃い世界がぱっと広がった感じがしました。

 ――ハンスさんもこの舞台で初めてのコスチューム担当をされました。どの点を意識されて、デザインされましたか?

ハンス……舞台にとってよいコスチュームはなにかを考えると、前に出過ぎないということなんですね。役者さんの体にコスチュームが融合することで、はじめてひとつの人物像として成立する。言葉を恐れずいうと、衣装に目がいかないくらい服をキャラクターに溶け込ませて、パーソナリティや所作に向くように観客のみなさんの意識が向くように気を配りました。
もちろんビジュアル的に印象に残ることも必要なので、役者さんの言葉や姿から見えてくる色やオーラみたいなものを自分になりに見分けて、着丈から小物を含めてスタイリングしています。

 ――コスチュームはあえて目立たせず、人物像は浮き立たせて印象づけるという、真逆のアプローチが必要なんですね。

ハンス……舞台はチームを組んでつくりあげていくものなので、舞台の背景の色やほかのキャラクターとの対比のなかで、コスチュームを変更することもありました。引き算とちょっと足し算を繰り返して微調整することで、舞台全体としても、キャラクターひとりひとりとしても、整合性のあるものにしていく。マクロとミクロの両方を捉えながら、よりベターなチョイスをしていく感覚でした。

 ――「似ていない双子」とマハさんが表現されたとおり、ゴッホとゴーギャンの対比が、コスチュームでも表現されていましたね。

ハンス……ゴーギャンの写真から着ているものを考察したり、ゴッホとゴーギャンが残したセルフポートレイトからも彼らの人物像を探っていきました。彼らが、自分はこう見られたい、自分はこうであると、絵に込めていた思いをキャッチするのは楽しい作業でした。

(ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」デザイナー・伊藤ハンスさんインタビュー vol. 3につづく。/インタビュー構成・清水志保)

伊藤ハンス
パリのモード専⾨学校 “Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne” を卒業後、「メゾン マルタン マルジェラ」のアトリエ勤務を経て独⽴。2016年、エコール・ド・キュリオジテ」クリエイティブ・ディレクターに就任。(撮影/ZIGEN)

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式HP
https://www.ecoledecuriosites.com

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式インスタグラム
@école_de_curiosités

SHARE ON

さらに記事をよむ

TOPICS 一覧に戻る