ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」デザイナー・伊藤ハンスさんインタビュー vol. 1

2021.10.18
インタビュー

 2016年秋、パリに誕生した「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」(エコール・ド・キュリオジテ)は、マハさんのオリジナル掌編をもとに、物語の世界観が服づくりにトレースされる唯一無二のファッションブランド。「モードとアートと物語の融合」をコンセプトに、確実にファンを増やしてきた本ブランドのデザイナー・伊藤ハンスさんに、マハさんとの出会いからブランドのこと、そして初めて舞台コスチュームを担当した「リボルバー」のお話まで伺った特別インタビュー第一回。

(写真/21AW collection "Lucie"より、オルガンプリーツが印象的なドレス《DANIELA》。ライトウェイトの撥水コットン、フランスの1910年代のヴィンテージ貝ボタンを使用。服/ÉCOLE DE CURIOSITÉS、撮影/Kasono Takamura)

凛としたマハさんの雰囲気に合うように仕立てたオーダーメイドの洋服。

 ――ハンスさんとマハさんの出会いをお聞かせいただけますか?

ハンス……十年以上前に、共通の知人だった美術雑誌の編集の方を通して、パリでマハさんとお会いしました。ちょうどマハさんが『楽園のカンヴァス』の執筆をされていた時期で、ふだん僕がパリでどんな生活をしているか、お話させていただいた記憶があります。マハさんはその後もコンスタントにパリにいらして、そのたびに美術館に連れていっていただきました。僕もアートに親しみも持っていましたが、パリにいながらアートを観る機会が多くはなかったので、いい美術館がたくさんあることを教えてくださったのがとても印象的でした。

 ――ハンスさんはパリのモード専⾨学校を卒業後、大手のメゾンのアトリエ勤務を経て、独⽴されました。

ハンス……ずっとモードの世界にいながら、デザインの仕事のチャンスに恵まれずにいましたが、自分の楽しみとしてカスタムした自室をご覧になったマハさんが、面白いと言ってくださったことがありました。それを機にIDÉE の方をご紹介いただき、マハさんの素敵な文章と一緒に、初めて自分がアップサイクリングしたプロダクトを発表しました。

ハンスさんがオーダーメイドした「ジヴェルニー」を纏うマハさん。理知的な雰囲気のなかに、大人の遊び心を感じさせる一着。撮影/森 榮喜

 その後、マハさんからご自身のポートレイト用の服のオファーをいただいて、オーダーメイドの服を仕立てました。ゆるやかな感じを出せるケープのトップスとワンピースのセットアップを用意しましたが、凛としたマハさんの雰囲気とマッチしていて、とてもお似合いだった。マハさんにも気に入っていただけて、その服に「ジヴェルニー」という名前をつけていただきました。

マハさんと一緒にクリエイションすることで、フレッシュなものが立ち上がってくる。

 ――オーダーメイドの服づくりをきっかけに、ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」がスタートするわけですが、このブランド名にはどんな由来がありますか?

ハンス……このブランド名は、時間をかけて考えた愛着がある言葉で、マハさんも文句なしでしたね(笑)。エコールという言葉はフランス語で「学校」を意味しますが、「エコール・ド・パリ」と言われるように、派閥やムーブメントという意味合いでも使われます。服づくり、ものづくりというのは見えないところにたくさんのひとの協力があってできているもの。このブランドも最初は僕とマハさんでスタートしましたが、いつしかチームとしての広がりが出て、ムーブメントにしたいという思いがあります。真面目に勤勉に、誠実に実直にやっていきたい気持ちも込めて、エコールという言葉を選んでいます。

――キュリオジテはフランス語で「好奇心」という意味ですから、ブランド名は「好奇心の学校」という意味を持つんですね。

ハンス……「好奇心」という言葉は、とてもポジティブなエネルギーを持っていると思っています。ヨーロッパには「キャビネット・オブ・キュリオリティーズ」という「好奇心の棚」を意味する言葉があり、15世紀や16世紀の貴族たちは自分が集めた珍しいオブジェやツボを陳列棚に収め、お客様が来たときにおもてなしの意味を込めてその棚を見せていました。のちにそういった古い慣習が博物館、美術館という形につながっていくんですが、昔から僕はその言葉が気になっていて、「エコール」と「キュリオジテ」という言葉をひとつにまとめました。

 ――本ブランドは、マハさんがクリエイターとしても参加されています。毎シーズン、マハさんが書き下ろしたアート掌編をもとに、ハンスさんが服のデザインをされるというのは、とてもユニークな試みですね。

ハンス……僕ひとりでインスピレーションを探して、なにかに昇華するというのではなく、マハさんと一緒にクリエイションすることで、フレッシュなものが立ち上がってくるように思えて、シーズンごとにあるアーティストにちなんだストーリーを書いていただいています。フォーカスするアーティストの作品は実際に一緒に美術館へ見に行き、マハさんと意見交換を重ねています。出発点であるアーティストやテーマにする時代性をうまくキャッチしながら、マハさんのストーリーを膨らませたり飛躍させたり、調和をとっていく作業をしていきますが、最終的にはお客様に選んでいただけるものになっていなくてはならない。コンセプトを大事しながら、1着1着のもの自体に服としての機能や着心地の良さといったいろいろな要素を、レイヤーでかけていくのはやりがいのあることですね。

(ファッションブランド「エコール・ド・キュリオジテ」デザイナー・伊藤ハンスさんインタビュー vol. 2につづく。/インタビュー構成・清水志保)

伊藤ハンス
パリのモード専⾨学校 “Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne” を卒業後、「メゾン マルタン マルジェラ」のアトリエ勤務を経て独⽴。2016年、エコール・ド・キュリオジテ」クリエイティブ・ディレクターに就任。(撮影/ZIGEN)

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式HP
https://www.ecoledecuriosites.com

「ÉCOLE DE CURIOSITÉS」公式インスタグラム
@école_de_curiosités

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