映画『総理の夫』公開記念/女優・中谷美紀さん×マハさん vol. 2
- 2021.09.23
- インタビュー
映画『総理の夫』では、凛子に夢を託して演じさせていただいたと語る女優の中谷美紀さん。本書のタイトルが浮かんだときから中谷さんに凛子を重ねていたマハさんと、中谷さんの豪華対談第二回。
あくまでもこの映画はコメディだという河合勇人監督からの意思表示を感じた。
マハ……凛子を支えるパートナー・日和のほうはイメージがなかったのですが、田中圭くんに決まったときは、「成長したなあー」と思ったんです。圭くんには『ランウェイ・ビート』という青春小説で、主人公の親友の役を演じていただいたことがあって、そのときに「僕、23歳なんですけど、高校生の役をやっています」と仰っていました(笑)。
中谷……圭くんが演じた日和は、鳥の研究をしていれば幸せという欲のないひとで、彼が日和として隣にいてくれることはとても安心感がありました。きっと圭くん自身は台本を読んで考えていることもたくさんあったと思いますが、そういったことを一切、外に出さない方でした。
マハ……日和はふだん言葉を尽くして、凛子を支えるタイプではないですが、気がつけば必ず凛子のそばにいて、凛子が困ったときには気づきを与えたり、心の拠り所になる存在。私は一本筋が通った揺るぎなさを日和に託しましたが、中谷さんと圭くんの空気がマッチしてとてもよかったです。
中谷……原作で日和が自分で心に決めた三つのことがとても好きなんです。それがなにかは作中で楽しんでいただきたいですが、日和くんの凛子への愛を感じます。お互いに自立していて、かつ自由を共有できる。ただなにかあったら頼れるし、ほんとうのことを話せるなんて理想のパートナーシップですよね。
マハ……こんな理想の夫婦はなかなかいないかもしれませんが、私はひとつのエンターテイメントとして、これくらい振り切れたほうがいいだろうなと考えながら原作で夫婦像を描きました。
中谷……映画も河合勇人監督が照れずに堂々と、エンターテインメントの王道として作り上げてくださいました。台本にオウムが登場してからは、あくまでもこの映画はコメディだという監督からの意思表示を感じられました。多くの方に日々の暮らしと直結する政治に興味を持っていただき、投票に行くまでの道筋をつけられるようにするには、媒介である映画は絶対的にエンターテインメントであることが重要だと思います。
マハ……小説を読んで映画を観て終わりにせず、その先にある本当の社会に目を向けていただくためには、まずは面白くなくちゃいけない。エンターテイメントとして成功してこそ、小説も映画もいい媒介になり得ます。そういう意味でも、凛子を演じていただいた中谷さんは、素晴らしい媒介者になられていますね。
中谷…まさに演じるということは媒介であって、自分を演じることではないと思っています。どれだけ衣装を変えて、声を変えてみても1人の人間が演じることに限りはありますが、極力、エゴを消して媒介に徹するよう心がけています。
衣装や照明、監督、役者のみなさんの力で、無理をしなくても凛子としていられた現場。
マハ……映画には見所がたくさんありましたが、鳥類調査から帰ってきた日和が、なにもわからないまま空港から車に乗せられ、車中から凛子が総理大臣に指名されたニュースを初めて知ったシーンが好きです。巨大なデジタル掲示板に映る凛子の顔と、唖然と見つめる日和の顔が行き交う演出が、ほんとうに素晴らしかった。初の女性総理大臣が誕生して時代が変わるんだという高揚も伝わってきて、わくわくするオープニングでした。
中谷……見所といえば、先ほどお話ししたオウムにも注目していただきたいです。撮影初日に日和がオウムの鳥かごを揺らすシーンを演じて以来、圭くんはオウムに嫌われてしまって、圭くんを威嚇するようになったんです(笑)。日和は鳥類研究者なので鳥と会話をするシーンも多かったのですが、よく見るとオウムのトサカがふぅーっと逆立っていて、そんなところもきっとファンの方には喜んでいただけるじゃないんでしょうか。
マハ……それは注目ポイントですね(笑)。作中に凛子の熱狂的なファン・凛子ジェンヌが登場しますが、中谷さんが演じる凛子が素敵すぎて、私も凛子ジャンヌになってしまいそうでした。映画のパンフレットは読むと、政界一の腹黒い政治家・原久郎と対峙するシーンでは、中谷さんご愛用のお着物を着て演じられていたんですね。ここぞという時に着物を着こなし、国民を熱狂させる女性総理を体現していただいていました。
中谷……衣装や照明のプロ、河合監督、そして役者のみなさんが、私を凛子にしてくださったので、ある意味、無理をしなくても凛子としていられる現場でした。日本では政権発足の際、男性は昼の礼装であるモーニングなのに女性はなぜか夜のイブニングドレスである上、ジャケットをお召しになることが多いですが、政権発足のシーンでは、スタイリストさんと相談してドレスのみでジャケットは着ないことにさせていただきました。
マハ……ばんとデコルテを潔く出して自信に満ちている凛子は、魑魅魍魎の政界に咲く一輪の花のようでした。見た目や立場だけはない、本質的な気高さを感じられるシーンでしたね。
(映画『総理の夫』公開記念対談/女優・中谷美紀さん×マハさん vol. 3につづく/構成・清水志保)
▼スタイリスト:岡部美穂
▼ヘアメイク:下田英里
▼ネイリスト:川村倫子(ネイルハウス安气子)
▼カメラマン:伊藤彰紀(aosora)
中谷美紀(なかたに・みき)
1993年女優デビュー。以後、数々のドラマ、映画、舞台に出演。映画『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2021年9月23日公開の映画『総理の夫』では、日本初の女性総理・相馬凛子役を演じる。『オーストリア滞在記』が幻冬舎文庫より発売中。
インスタグラムアカウント@mikinakatanioffiziell
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