映画『総理の夫』公開記念/女優・中谷美紀さん×マハさん vol. 1

2021.09.23
インタビュー

 9月23日公開の映画『総理の夫』で、史上初の女性総理大臣・凛子を演じた女優の中谷美紀さん。映画の公開を記念して原作者のマハさんと中谷さんの対談が実現しました。

現実のほうが原作に近づいて、この映画がいま公開されることに大きな意味がある。

マハ……中谷さんが演じられた凛子を、撮影現場で見学することができなかったので、今日お会いできるのを楽しみにしていました。私はずっと中谷さんのファンで、ドラマや映画も拝見してきましたし、中谷さんが書かれた『オーストリア滞在記』も拝読しています。丁寧な仕事ぶりと暮らしぶりに共感しましたし、とても素敵でした。

中谷……お読みいただき、ありがとうございます。原田さんはたくさんのご著作を発表され、アートの伝道師として活躍されています。私も憧れの原田さんにお会いできて嬉しいです。

マハ……中谷さんに凛子を演じていただいた『総理の夫』は、まずタイトルがぽんと出てきて、女性総理大臣とその夫の話を思いついたんです。物語の全体像はまったく決まっていませんでしたが、これは面白いと直感的にわかって、映像化できたら中谷さんに演じていただきたいと思いました。美しく颯爽としていて、頭も切れて政治的な手腕もある史上最年少の40代女性総理大臣にぴったりなのは、中谷さんしかいない。原作を書いたのは10年以上前で、当時、中谷さんは30代でしたが、映像化には時間がかかるものなので、映画化が実現したころには、中谷さんも40代になっているからぴったり! なんて勝手な妄想を膨らませていました(笑)。

中谷……ほんとうですか! 原田さんがプロモーションのためにそう言ってくださっているのかと思っていました(笑)。オファーをいただいたときは、ほんとうに嬉しかったです。女性に生まれたが故に、若いころからどこかもどかしい思いがあった私としては、原作を読んでいても、台本を読んでいても、自然と涙が出てきてしまう。フェミニズムをヒステリックに叫ぶタイプでもないですし、それもできずにこんなものだろうと諦めていましたが、私が願ってもぜったいにできなかったことを凛子は叶えてくれています。凛子に夢を託して演じさせていただけたのは、光栄の極みです。

マハ……中谷さんにそう言っていただけて、私もとても嬉しいです。ふだん私は政治的な発言をすることはないのですが、以前、『本日はお日柄もよく』という小説を執筆したあとに、選挙や政治のことをもう一歩踏み込んで書けるんじゃないかという、もやもやしたものが残っていました。日本の政治の世界や財界でも女性のリーダーはとても少ない。アートの世界では女性の立ち位置がとても特殊で、モダンアートが発展する歴史のなかで、女性は美術の庇護者という存在でした。男性が仕事や事業を成功させてお金を稼ぎ、マダムが美術家を金銭面で支える形で社会還元するのが欧米の考え方としては主流です。そのポジショニング自体がこれでいいのかなとずっと思い続けていたのも確かで、社会的な立場の女性リーダーがいないことを疑問に思っていました。

中谷……原田さんが原作を書かれたころは、日本で女性の総理大臣が登場するなんて想像もできない時期で、原作で描かれていることはある種のファンタジーに感じられたかもしれません。でもいまはニュージーランドの首相・ジャシンダ・アーダーンさんやフィンランドのサンナ・マリン首相など、世界に目をやると若き女性リーダーが活躍されています。現実のほうが原作に近づいてまさに機が熟したというか、この映画がいま公開されることに大きな意味があるように思います。

中谷さんが演じたことで、完璧な女性として描いた凛子に説得力が出た。

中谷……もし私が30代のときに今回のオファーをいただいていたら、原作の凛子のようにショートカットにして総理大臣を演じていたかもしれませんが、いま世界中の女性リーダーたちはロングヘアーの方も多くて、あえて男勝りにする必要がないように感じました。ショートカットにせず、セミロングで凛子を演じたのは、原作からあえて取り入れなかった部分です。

マハ……ショートとロングのどちらが女性らしいということもないですし、ご自身のありのままでみなさん、活躍されています。私も中谷さんそのままで凛子を演じていただけたことがとてもよかったです。中谷さんが仰るように、悔しいことに原作はファンタジーとして書きましたが、中谷さんに演じていただいたことで、完璧な女性として描いた凛子に説得力が出ましたね。

中谷……完全無欠で一点の隙もなく、国民のために尽くそうと突き進む凛子の清々しさや器用さを大切に演じたいと思いました。ドイツのメルケル首相をはじめ、各国の女性リーダーのスピーチやインタビューを拝見すると、しっかりアンガーマネジメントしながら、女性であるがゆえに不当な扱いを受けてもサラリとかわし、国民ひとりひとりに自分の言葉で冷静に語りかけている。具体的な誰かの真似をするということではありませんが、感情的にならずに台詞を丁寧に述べるというのは、常に心がけました。

(映画『総理の夫』公開記念対談/女優・中谷美紀さん×マハさん vol. 2につづく。/構成・清水志保)

▼スタイリスト:岡部美穂 
▼ヘアメイク:下田英里 
▼ネイリスト:川村倫子(ネイルハウス安气子)
▼カメラマン:伊藤彰紀(aosora)

中谷美紀(なかたに・みき)
1993年女優デビュー。以後、数々のドラマ、映画、舞台に出演。映画『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2021年9月23日公開の映画『総理の夫』では、日本初の女性総理・相馬凛子役を演じる。『オーストリア滞在記』が幻冬舎文庫より発売中。
インスタグラムアカウント@mikinakatanioffiziell

SHARE ON

さらに記事をよむ

TOPICS 一覧に戻る