『キネマの神様 ディレクターズ・カット』インタビュー vol.1

2021.04.09
インタビュー

 8月6日に全国ロードーショーが決定した映画「キネマの神様」。映画の公開に先駆け、山田洋次監督が手がけた脚本をベースに、マハさんがノベライズした『キネマの神様 ディレクターズ・カット』が発売されました。原作者自らが小説化した異例のノベライズの創作秘話を公開です。

ゼロからこれを書けと言われても私には絶対に書けない「山田洋次監督にしか描けない世界」。

 ——マハさんが初めて観た映画は、山田洋次監督が撮られた「男はつらいよ」で、はじめは乗り気じゃなかったものの、すっかり寅さんに魅せられ、ポスターを買って帰ったほどだったと伺いました。大好きな映画の作り手である山田監督が、マハさんの『キネマの神様』を撮影されるなんて、もし当時のマハさんがそんな未来があると知ったら、驚くでしょうね(笑)。

マハ……10年以上前に『キネマの神様』を書いたときから、山田洋次監督に映画を撮っていただけたらいいなあと思っていたんです。ありがたいことに出版後に何度か映画化のオファーをいただきましたが、私のなかでは山田監督にお願いしたい気持ちが強くて、機会を待ち続けていました。
 ある雑誌の対談で山田監督にお会いすることができ、思い切って『キネマの神様』の話をしたら、すでに山田監督もお読みになっていて、映画のアイディアまで語ってくださった。ずっと片思いだったひとに想いを打ち明けたら「実は僕も……」と両思いだったようなシュチュエーションで感激しました(笑)。

 ——最新刊『キネマの神様 ディレクターズ・カット』のまえがきで、マハさんが山田監督の脚本を読んだときのエピソードが書かれています。ギャンブルと映画が好きという父・ゴウの設定は同じですが、映画では原作にはない登場人物も出てきていたり、原作とは違う物語になっていました。

マハ……私が書いた『キネマの神様』は、映画を受け止める映画愛好家としての目線から映画を追いかけた物語ですが、映画「キネマの神様」では、映画をクリエイトするひとたちの姿が描かれています。映画の作り手側に迫ったことで、原作よりも「映画」の部分を凝縮されていて、ゼロからこれを書けと言われても私には絶対に書けない「山田洋次監督にしか描けない世界」がありました。脚本を読ませていただいたことで、ある物語をご自身の映画に作り変えていくプロセスがわかって、山田マジックの一端を垣間見た気がしましたね。

山田洋次という偉大な映画監督のクリエイションのプロセスを、みなさんに見ていただきたい。

 ——原作小説のエッセンスを凝縮しながらも、新しい物語になった脚本を元に、マハさんがふたたび小説にした『キネマの神様 ディレクターズ・カット』ですが、原作者自らが映画のノベライズを書くというのは異例ですね。

マハ……昨年の夏に、松竹のプロデューサー・房俊介さんから、折り入って話があるとご連絡をいただきました。折り入ってということだから、よっぽど特別なことだろうとお話を伺ったら、「“キネマの神様”を原作として書かれた脚本“キネマの神様”を原作として、小説“キネマの神様”を書きませんか?」って(笑)。
 実は脚本を読ませていただいたときに、これをもう一度小説に書き直したら面白いだろうなあという漠然としたアイディアがありました。でも山田監督の脚本を元に私が小説を書くなんて恐れ多いことだと思っていましたし、そのときは思いつきのまま深く考えてはいなかったんです。

 ——原作者だからこそわかる脚本の素晴らしさに触れ、マハさんのなかでも小説にしたいというお気持ちがあったのですね

マハ……私が感じた「山田洋次という偉大な映画監督のクリエイションのプロセス」を、みなさんに見ていただきたい気持ちもありました。彼がどんな思考でなにを大切にし、どんなコンセプトで創作にあたっているのか。面白半分に脚本をノベライズにして、これがうまく当たってたくさんの方に読んでもらえたらいい、という単純な考えではなくて、もっと一段深いところで、「後世に残さなくてはならない」「知ってもらわなくてはいけない」という思いのほうが強かったです。

『キネマの神様 ディレクターズ・カット』インタビュー vol.2につづく。インタビュー・構成/清水志保)

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