原田マハポートレイト撮影秘話! 写真家・藤井保さんスペシャルインタビュー vol. 2
- 2021.01.22
- インタビュー
昨年、小説家デビュー15周年を迎え、今年は原作映画の公開が控えているマハさん。マハさんの長年の念願が叶い、「ボンマルシェ」の撮影とは別に、藤井さんに最新ポートレイトを撮影していただきました。藤井保さんスペシャルインタビュー第二回では、オリジナルの銀塩写真で撮影されたマハさんのポートレイトを一挙公開です。
写真家の僕からすると、オキーフとカポーティの写真は、ある意味、対極にあるポートレイト。
――マハさんには以前から憧れていたポートレイトが二枚ありました。ひとつは写真家のユーサフ・カーシュが画家のジョージア・オキーフを撮影したものでしたが、思慮深い彼女の横顔に惹きつけられる写真ですね。
藤井…オキーフは絵描きとしても好きな作家だったので、マハさんからオキーフのポートレイトが出てきたときには、驚いたというか、かなりのプレッシャーを感じました(笑)。彼女の旦那さんはアルフレッド・スティーグリッツという写真家で、彼の作品集にはオキーフが映っているものがいくつもあります。僕も何冊か持っていますが、「いつかこういう写真集を出したい」と思うような仕事です。
オキーフがよく写真を撮られていたサンタフェのアトリエにも行ったことがあって、とてもフォトジェニックな場所でした。残念ながら、アトリエの中までは見学できませんでしたが、マハさんも行ったことがあると話していましたね。
――もうひとつの写真は、写真家のアンリ=カルティエ・プレッソンが撮影したトルーマン・カポーティのボートレイトでした。カポーティの挑むような視線が印象的な一枚です。
藤井…写真家の僕からすると、オキーフとカポーティの写真は、ある意味、対極にあるポートレイトなんですが、この二枚の写真にはそれぞれ、なにかひとつ深いコンセプトがあるんだろうなあと感じます。
写真の展覧会にしても、きっとマハさんの小説にしても、イントロダクションはとても重要。
――撮影前に藤井さんは、ポートレイトでは「マハさんの“姿”“形”“知”を写す」と話されていました。ポートレイトの撮影場所として選ばれたのは、東京国立美術館の4階エレベーター前でしたが、なぜこの場所をセレクトされたのでしょうか?
藤井…最初にロケハンをした時は、自然光が差し込み、窓の向こうに皇居の一部が見える一室を考えていました。ただそこだと美術館の持っている空気感とは、まったく違ってしまう。僕のスタジオでマハさんを撮るのと同じだという気持ちになって、もう一度、ひとりで美術館に行ってみたんです。入り口からエレベーターで四階まで上がり、そこから美術館の展示室へと入って行くと、静寂でありながら濃密な空気の異空間に入っていく感覚があった。マハさんがこの美術館を好きだという理由は、こういうことなのかとわかった気がしましたね。
写真の展覧会にしても、きっとマハさんの小説にしても、イントロダクション(=入り口)はとても重要で、最初の印象が一番大切なんですよ。入った瞬間に日常とは違うなにかを感じられるこの空気を、写真に残せたらいいだろうと思いました。
――展示室の群青色の壁とは違い、エレベーター前はすっきりとした白壁でしたね。ルソーの絵の前での撮影では、セッティングに時間をかけられていましたが、ここでの準備はそれほどかかりませんでした。
藤井…光量が足らないところや、影を薄くする意味でライトをひとつ足しましたが、基本的には美術館にあったそのままの光で撮影しています。ライティングの捉え方は、写真にとって重要なことで、美術館の光こそが美術館の空気になる。美術館の空気を壊さないように、活かしながら撮るというのは意識しました。
――藤井さんはポートレイトの衣装に黒を指定されていましたが、モノクロの写真に仕上がったポートレイトを拝見すると、白壁と床のダークブラウン、そしてマハさんの黒のワンピースのコントラストが絶妙ですね。
藤井…マハさんが選ばれた洋服は首のVラインや、壁の前に立って全身を撮ったときのスカートのラインもきれいで、マハさんの雰囲気にぴったり合っていましたね。ポートレイト写真に映っている床の部分も、いい色合いで、僕は色のトーンとして、モネの睡蓮を感じるんですよ。
藤井 保(ふじい・たもつ)
1949年島根県生まれ。広告制作会社の写真部で勤務後、独立。以降、広告、デザイン、映画など幅広いジャンルで活躍し、各界で高く評価される。毎日デザイン賞、朝日広告賞、ADCグランプリ/ADC賞、カンヌ国際広告祭P&P部門銀獅子賞などを受賞。写真集に『ぐんげんどう』(平凡社)、『カムイミンタラ』(リトルモア)、「A KA RI」(リトルモア)、『藤井保の仕事と周辺』(六耀社)、『ニライカナイ』(リトルモア)などがある。
(写真家・藤井保さんスペシャルインタビュー vol. 3につづく。インタビュー・構成/清水志保)
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