原田マハポートレイト撮影秘話! 写真家・藤井保さんスペシャルインタビュー vol. 1

2021.01.15
インタビュー

 昨年末に発行の「ボンマルシェ」(朝日新聞社)のLife Styleページで、インタビュー記事とあわせて、マハさんの近影が掲載されました。マハさんが愛してやまないルソーの作品と一緒に、日本を代表する写真家・藤井保さんに撮りおろしていただいた特別な写真の数々。2021年最初のスペシャルインタビュー第一弾は、その撮影秘話を藤井さんに語っていただきました。

なぜマハさんの小説が多く読まれているのかが、『楽園のカンヴァス』一冊でよくわかる。

 ――マハさんと藤井さんの出会いは、20年以上前、マハさんが森美術館準備室にいた頃に、藤井さんにル・コルビュジエの作品を撮影していただいたときだと伺いました。昨年で小説家デビューから15年が経ちましたが、その間、マハさんとなにか接点はありましたか?

藤井…あの撮影からマハさんとお仕事をご一緒する機会はありませんでしたが、マハさんが小説家として活躍されていることは、僕ももちろん知っていました。原田マハ名義で活動される前に、僕のために「静寂のエナジー」という寄稿文を書いてくださったんです。ディレクターの方たちが「藤井さん、これはすごい宝物ですね」と言ってくれることも多くて、ずっとマハさんの文章が頭に残っていました。いま読み返してみても、当時からマハさんの物を書く感覚や才能があったことがよくわかります。

 ――今回、「ボンマルシェ」の担当の方からインタビューのご依頼があり、写真は「好きな写真家の方で、好きな場所での撮影」という提案をいただきました。マハさんが好きな写真家として真っ先に挙げたのが藤井さんで、ずっと藤井さんの素晴らしい仕事ぶりに感銘を受けていたマハさんは、いつかポートレイトを撮っていただきたいと思っていたそうです。

藤井…撮影の依頼はとても嬉しかったですね。マハさんの小説は未読だったんですが、撮影の前に『楽園のカンヴァス』を読ませていただきました。なぜマハさんの小説が多く読まれているのかが、この一冊を読めばよくわかる。日本だけではなくパリをはじめとする海外を舞台に、知的好奇心をくすぐる言葉や美術に対する美意識など、たくさんの要素が詰まっていますよね。僕がよく展覧会をやらせていただく恵比寿のMA2ギャラリーのオーナーが、マハさんの作品をすべて読んでいて、意識の高い女性たちに面白く読まれるだろうなあと思いました。

もしアンリ・ルソーが原田マハを描いたら、どんな絵を描くだろう。

撮影:藤井 保/撮影協力:東京国立近代美術館/作品:アンリ・ルソー作『第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神』

 ――マハさんが撮影場所として選んだのは、マハさんが好きな作家のアンリ・ルソーが描いた「第22回アンデパンダン展へ参加するよう芸術家達を導く自由の女神」の前でした。

藤井…実は東京国立近代美術館にロケハンに行く前は、『楽園のカンヴァス』の表紙に使われている「夢」と一緒に撮影すると思っていたんです。絵の中央に立つマハさんの肩越しに、かすかにルソーの絵がぼんやりと映り込んでいるような写真はどうかとイメージしていました。
 でも実際に今回撮影する作品を見たら、縦位置の大きな絵で、ルソーの絵とマハさんを横並びにして撮影すると、絵と人物が二分割してしまう。なにかこのふたつを繋げる要素が必要だと、再度、構図を練り直しました。
 美術館の展示室の壁が深い群青色で、とてもいい色をしていたので、濃厚で濃密な濃紺の闇にマハさんの顔と肌色を浮かび上がらせながら、ルソーの絵を少し傾けて映り込ませることで、ひとつの世界になるようにしています。

 ――100年以上前に描かれたルソーの作品と原田さんが、藤井さんが撮影した写真によって、また別の一枚の絵画のようにも見え、とても美しいです。

藤井…ひと言で言ってしまうと「ルソーの絵とマハさんが映った写真」なんだけれども、マハさんとルソーの作品がひとつの絵になっていたら面白いですよね。
 マハさんにルソーの絵の前でポートレイトを撮ってほしいと言われた時、もしルソーが原田マハを描いたらどんな絵を描くだろうかと想像しました。以前、アフリカのカメルーンで撮影していた時に、もしモネがアフリカを旅したら、きっとこの場所でこの小屋と池を絵に描いただろうなと思う場所があった。そうやって想像することは楽しいですし、写真を撮るにあたってとても大事なことなんです。

撮影:瀧本 幹也

藤井 保(ふじい・たもつ)
1949年島根県生まれ。広告制作会社の写真部で勤務後、独立。以降、広告、デザイン、映画など幅広いジャンルで活躍し、各界で高く評価される。毎日デザイン賞、朝日広告賞、ADCグランプリ/ADC賞、カンヌ国際広告祭P&P部門銀獅子賞などを受賞。写真集に『ぐんげんどう』(平凡社)、『カムイミンタラ』(リトルモア)、「A KA RI」(リトルモア)、『藤井保の仕事と周辺』(六耀社)、『ニライカナイ』(リトルモア)などがある。

写真家・藤井保さんスペシャルインタビュー vol. 2につづく。インタビュー・構成/清水志保)

SHARE ON

さらに記事をよむ

TOPICS 一覧に戻る