『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』インタビュー vol.1

2019.08.16
インタビュー

 十年ぶりの書き下ろし短編集『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』は、マハさん自身が総合ディレクターを務める展覧会と関連した異色のアート小説。「私」から「私」に届いた一通の挑戦状から始まる本書の創作秘話を、マハさんに語っていただきました。

宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の手書き原稿を見たときの衝撃が残っている

 ——キュレーターとして美術館に勤務した経験を持つマハさんが、作家に転身後、初めて手掛ける展覧会「CONTACT」が、9月1日から京都の世界遺産・清水寺で開催されます。本書はその展覧会と連動して書き下ろされたアート小説短編集ですね。

 昨秋にICOM京都大会2019の開催に合わせた展覧会をやることが決まったときに、私も展覧会の企画者というだけでなく、いちクリエイターとして参加したいという気持ちがありました。『ロマンシエ 』や『デトロイト美術館の奇跡』で、現実世界で行われている展覧会と、フィクションが地続きになる面白さを体験していたので、物書きである私がなにかを書くことによって、CONTACT展に参加したかったんです。
 「関連小説を書きます」と言ってはいたものの、展覧会の準備に奔走するうちに展覧会開催の三ヶ月前になってしまって。その時点でも、いったい何を書くのか自分でもわからなくて(笑)。展覧会を手伝ってくださっているみなさんも、小説の担当編集の方々も「マハさんは、小説を書くと言っているけれど、いったい何を書くつもりだろう」と不安に思っていたかもしません。

 ——序章では「私」から「私」に宛てた手紙が届くところから物語が始まります。二人(?)のテンポよい掛け合いが楽しく、「これは挑戦状である」という言葉にも期待を膨らませながら読み進めました。未来の「私」が「私」にコンタクトしてくるというのは、とても面白い設定ですね。

 執筆を始めようと思っていた頃は、ちょうど展覧会のコーキュレター・林寿美さんと展示作品をセレクトしていた時期だったんですが、突然、展覧会に宮沢賢治の手書き原稿を入れたいと思いつきました。私は子供の頃から宮沢賢治の作品が大好きなんです。作家になる前に花巻にある宮沢賢治資料館に行き、「銀河鉄道の夜」の手書き原稿を見たことがありました。生前、賢治は物語作家として認められることもなく、二作品を自費出版しただけでしたが、ものすごい量の原稿を書いては推敲を重ねていました。誰に読ませる当てもない物語と何度も対峙し校正をし続けていたというのは、「自分」で「自分」にコンタクトしていたことに他ならない。それが結果的に未来の私たちに向かって書いていた物語だったんだと、いまもあのときの衝撃が生々しく残っています。賢治が「自分」で「自分」にコンタクトしていたことをきっかけに、「私」が「私」に挑戦状を送ってきたところから本書のイントロダクションは始まりました。

 ——この本のカバーを外すと、マハさんの手書き原稿がデザインされていますが、本当に序章は手書きだったのですか?

 本当に手書きですよ(笑)。急に、パソコンにログインできなくなってしまっていろいろと設定をいじっているうちに、まったくパソコンが使えなくなったんです。そのとき、パソコンがない時代でも、宮沢賢治のように昔のひとたちは手書きで執筆をしていましたし、ゴッホをはじめ物故作家たちはCGなどを使わずに絵筆で表現していたことを思い出して、私も鉛筆とA4のコピー用紙で執筆を始めました。不思議なもので小説を書きはじめるときには、一種の降りてくる感じやなにかにインスピレーションを得られる瞬間というのがあるんです。どういうタイミングで突然閃くのかは自分でもわからない、まさに神秘の瞬間ですね。

 ——「私」からの挑戦状には物故作家20人にインタビューをし、その内容とプロセスを掌編にまとめるよう指示がありました。憧れの作家たちに出会える喜びと緊張感が入り混じるマハさんの姿に、アーティストへの敬愛を感じました。

 今回の展覧会に出品する作家たちの名前を列挙していたときに、このアーティストたちとコンタクトできたら、どんなに面白いだろうなあと想像しました。どんな声でどんなふうに話したんだろうと想像すると、会ってみたい気持ちになりますよね。
 最初、本書では現存のアーティストを含む30人にインタビューをしようと考えていましたが、直接、作家の方々に会いに行く時間がなかったので、物故作家と妄想のなかでインタビューする形になりました。

(インタビュー・構成/清水志保)

CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展

会期:2019年9月1日(日)~ 9月8日(日) ※会期中無休
開催時間:7時~18時(最終入場は17時)
会場:清水寺(京都市東山区清水1丁目294)成就院、経堂、西門、馬駐
入場料:大人1,800円、子供(小学生以下)無料
    モーニングチケット(7時~9時入場)大人1,600円、子供(小学生以下)無料
前売り券:CONTACT展公式ホームページ チケットぴあ他にて発売中。
  

SHARE ON

さらに記事をよむ

TOPICS 一覧に戻る