『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』インタビュー vol.2

2019.08.27
インタビュー

たくさんのアーティストたちが時空を超えて、未来の私たちにコンタクトしてくれたことに励まされた」と語るマハさん。手書きで執筆をはじめた『20 CONTACTS』、そして9月に開催されるCONTACT展には、マハさんが未来へとつなぎたい星々たちの思いが詰まっていました。

物故作家たちの運命を、すでに知ってしまっているという切なさ

——「私」から届いた「挑戦状」には、物故作家にインタビューした内容とそのプロセスを小説にまとめるよう指示が書かれていました。巨匠たちとのコンタクトは短く、質問はふたつまで、手土産を必携、そして小説の締め切りが十日後というなかなか厳しい条件がついていましたね(笑)。

 本書の終章でも触れていますが、十日間で20人のアーティストとコンタクトをとるのは無理難題で(笑)、長編小説を書くのと同じ熱量でどの短編も執筆しました。
 序章を書いたときには、インタビューの条件に手土産のことを入れていなかったんです。一番目のコンタクト「いのくまさん」を書いているうちに、どうしても猪熊弦一郎さんに彼がデザインした三越の包装紙に包まれたものを渡したいと思いついて、すべてアーティストに手土産を持参するように条件を書き換えました。
 ふだんの小説でもアーティストたちの作品や半生を文献などで丁寧に確認していきますが、今回は彼らに喜んでもらえる手土産を選ぶため、彼らの生まれ故郷や嗜好、どんなところに行きつけの店があったかなど、略歴では語られないこぼれ話を詳しく調べていきました。調べれば調べるほど、それぞれのアーティストに面白い逸話が出てきて、より人間的な側面が見えてきました。

——マハさんから手土産を受け取ったアーティストたちの反応がとても生き生きとしていて、遠い存在のように感じる巨匠たちを身近に感じられるところもよかったです。

 実生活でも、初対面の方と会うときに、その方を思って選んだ手土産から話が弾むことってありますよね。シャンパンサイダーを嗜んでいた宮沢賢治には、シャンパンサイダーに合いそうなハイカラなものを、海外のアーティストには彼らが持つ日本のイメージや、好んでいた日本のアートにちなんだ手土産を選びました。執筆を終えたころには、すっかりお取り寄せグルメや手仕事が光る日本の民藝品などに詳しくなりましたよ(笑)。

——作中でマハさんは20人の巨匠たちと場所も時間も自由に訪ねていきますが、彼らとどこでどんな形で出会うのか、マハさんがコンタクトの場に選んだシュチュエーションも読みどころのひとつです。

 限られたインタビューのなかで、巨匠たちの煌めきや本質を捉えるのにベストなタイミングを、私なりにセレクトしています。執筆していていつも胸が切ない思いがしたのは、物故作家たちのプライムな時期や苦しい時期、そして運命までも、現代の私たちはすでに知っているということ。アーティストたちへの憧れと切なさを抱えながら、最後は、それこそ銀河鉄道に乗って素晴らしい物語の旅をさせてもらったような気持ちで本書を書き終えました。

個々に輝く星々が物語でつながることで、美しい星座や銀河になる

——本書では、マハさんが物故作家たちの作品と実際、どんな形で出会い、どう感じているのかをうかがい知ることができます。アートへ恩返しをしたいと常日頃、語られているマハさん自身のアート遍歴を読んだような気分にもなりました。

 16番目のコンタクト「発熱」でヨーゼフ・ボイスとのコンタクトの場に選んだ彼の展覧会には、作中のとおり、実際に足を運んだことがあって、その後の私の人生に大きな影響を与えるほどの衝撃を受けました。彼が表現したいものの意味を深く理解はできなくも、展覧会の空間全体が強烈な熱を発していて、現代アートというのは空間を丸ごと見てかっこいいものなのだと体感しました。
 実は、現代アートのかっこよさに魅せられた私は、クラシックなアートは時代遅れだと感じていた時期があったんです。しかし年を経て、たくさんのアーティストのことを調べていくうちに、彼らは影響を与え合い、コンタクトすることでつながっていたことに気がつきました。
 まったく違うものに見えていたクラシックアートと現代アートが、一度も途切れることなくつながっていたというのは、私のなかで大切な事実。本書ではさまざまな時代、国、さまざまなジャンルのアーティストが登場しますが、個々に輝く星々が「20 CONTACTS」という物語でつながることで、美しい星座や銀河となって輝き続ければいいなと思っています。

——いよいよ開催まで一週間となったCONTACT展ですが、本書でコンタクトした巨匠たちの作品も多く展示されます。清水寺という特別な空間で、たった八日間の奇跡のような展覧会を、ぜひみなさんにも鑑賞していただきたいです。

 20人の巨匠たちとのコンタクトを終えて、私はそれぞれのアーティストから未来へのバトンを託されました。私が小説を通して彼らとコンタクトした体験を、ぜひみなさんにもCONTACT展で体験していただきたいです。この展覧会ではキャプションや作品解説を置いていません。頭で考えず、まず心の目で作品と向き合い、なにかを感じ取ってほしいです。
 アーティストたちの作品は、彼らと私たちをつないでくれるインターフェイス。アーティストの思い、コンセプト、エネルギー、彼らが生きた時代や歴史までもが凝縮された優れたメディアです。私の小説もみなさんがアーティストとコンタクトするためのインターフェイスになることを祈っています。

(インタビュー・構成/清水志保)

CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展

会期:2019年9月1日(日)~ 9月8日(日) ※会期中無休
開催時間:7時~18時(最終入場は17時)
会場:清水寺(京都市東山区清水1丁目294)成就院、経堂、西門、馬駐
入場料:大人1,800円、子供(小学生以下)無料
    モーニングチケット(7時~9時入場)大人1,600円、子供(小学生以下)無料
前売り券:CONTACT展公式ホームページ チケットぴあ他にて発売中。
  

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