映画『キネマの神様』公開記念/女優・北川景子さん×原田マハ対談 vol. 2
- 2021.08.06
- インタビュー
アートが繋いだ縁でマハさんと出会い、映画『キネマの神様』では演者として、より深い関わりを持つことになった北川景子さん。実際の撮影現場でのやりとりも語っていただいた北川さん×マハさん対談の第二回。
(写真/(C)2021「キネマの神様」製作委員会)
私が悩んだり立ち止まったことが、逆によい方向で自分の演技に繋がった。
マハ……志村けんさんがお亡くなりなったとき、最初に私に知らせてくれたのが景子さんでした。ちょうどロックダウンの真っ最中のパリにいて、私もたいへんなショックを受けましたが、山田洋次監督やほかの演者の方々もショックだったろうなと想像しました。どうかみなさん、乗り越えていただきたいとメッセージを返した覚えがあります。そのときはたしか過去パートはクランクアップされていたんですよね?
北川……ほかの過去パートは撮り終わっていて、私は志村さんとご一緒するワンシーンだけ残っていました。明後日か明々後日に志村さんとの撮影があるタイミングで訃報を知って、あっ!と声が出るほど驚きました。
マハ……パリから戻ってきたころにようやく撮影が再開され、ラストカットの撮影に立ち合わせていただいたときには、「いろいろあったけど乗り越えてきましたね」と、みなさんと感動的に再会ができました。山田洋次監督の演出で、景子さんや主演の菅田将暉くん、沢田研二さんに寺島しのぶさんもいらっしゃって、もう信じられないようなラストカットをずっと拝見しました。
北川……ラストカットは何回も撮影をしたんですよね。ゲシュタルボ崩壊じゃないですけど、何度も同じ台詞を言っていると、ちょっと変えて言おうとしたはずが、前と同じ言い回しになってしまったり、だんだんわからなくなってきちゃいました。
マハ……あのときは監督も粘られて、16時間かかりましたもんね。
北川……監督はひとつひとつの台詞や1カット1カットに魂と熱量を込めて撮影されて、パワフルでエネルギッシュ。監督のパワーに自分も負けちゃいけない、食らいついていかなくちゃいけないという気持ちでずっと撮影をしてきました。今まで錚々たる俳優さんや女優さんを撮ってこられて、名作をたくさん残されているからこそ、監督ご自身の存在感もすごくて、発しているエネルギーが大きいんですよね。
マハ……監督には場をひっぱっていくオーラがあって、まるで軍師のようにキャスト、山田組を率いていて、ほんとうに統率力のある方だと思いました。景子さんの役どころはすごく難しいものだったけど、監督と撮影のオフの瞬間に会話をしたときに、本質を捉えながら熱心に演技をされる景子さんをみて、「彼女はすごくいいね」って何度も仰っていた。ほかの役者さんのこともすごく褒めていて、監督は演者をその気にさせる力をお持ちですね。
北川……監督が“こんな感じで”とやってみせてくださったあと、監督の真似をしてみるんですが、「違うんだよ、これが余計なんだよ」って仰ることもありました。監督の身振りを真似してもちょっと違っているのが自分でもわかりますし、監督の思い描いているものもわかっているのに、それを体現できない自分がすごくもどかしかったです。途中まで悩んでいましたが、考えすぎてもしょうがないと気が楽になったくらいで撮影が終わっちゃいました(笑)。
マハ……それくらいの気持ちでラストカットが撮れたのは、逆によかったのかもしれないですね。ラストカットのあとに追撮があって、クランクアップは景子さんとともに終わった。景子さんはこの映画の女神のようで、園子は景子さんのハマり役ですね。完成した映画を拝見して、景子さんやみなさんの演技、演出、そして映像がうまくはまっていて、日本映画史に残る伝説のワンシーンの撮影に立ち合うことができたと思いました。
北川……お客様にどう言っていただけるのか、怖い部分もありますが、そのとき自分が出せるものは出しきったと思っています。園子にとってシリアスなシーンだったぶん、私が悩んだり立ち止まったことが、逆によい方向で自分の演技に繋がったりもして、すべてでミラクルが起きている。奇しくも撮影がいったん中断したので、ラストシーンは産後の撮影になり、産前と産後でちょっと違う感じも出せたいい体験にもなりました。産む前と産んだ後の両方を撮っていただいたのは『キネマの神様』だけですし、私にとっても思い入れが強い役であり、作品になりました。
(映画『キネマの神様』公開記念/女優・北川景子さん×原田マハ対談 vol. 3につづく。構成/清水志保)
北川景子(きたがわ・けいこ)
1986年生まれ、兵庫県出身。2003年に女優デビュー。2006年「間宮兄弟」で映画初出演。近作に 「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」(19)「ドクター・デスの遺産BLACK FILE」(20)「約束のネバーランド」(20)「ファーストラヴ」(21)がある。
- SHARE ON