映画『キネマの神様』公開記念/女優・北川景子さん×原田マハ対談 vol. 1

2021.08.06
インタビュー

 映画『キネマの神様』で銀幕の大スター・桂園子を演じた北川景子さん。6月28日に行われた完成披露試写会の日、公私ともに交流がある北川さんとマハさんの豪華対談が実現しました。
(写真/(C)2021「キネマの神様」製作委員会)

たくさんの偶然が重なって今回の出演が決まり、ゴッホの番組がいいご縁を繋いでくれた。

マハ……やっとこの日を迎えることができました。景子さんと初めてお会いしたのは二年ほど前、ゴッホの足跡を巡る「日本に恋したゴッホ」という番組でご一緒したときでしたね。

北川……フランスでマハさんとお会いして、オランダも巡り、ゴッホ兄弟のお墓詣りもしましたよね。お互い意気投合して、とても楽しい旅でした。

マハ……景子さんはずっとゴッホが大好きで、一緒にゴッホの作品を見たときのコメントがとても瑞々しくフレッシュでした。多少、専門的な知識があるぶん、私はどこかしらそういう見方をしてしまうところがあるけれど、景子さんとご一緒して、新しいゴッホの見方や気づきもあったすごくいい体験になりました。

北川……ゴッホのゆかりのあるカフェでご飯を食べたときに、マハさんから「私が書いたものに景子さんに出てほしいわ」と言っていただいて、とても嬉しかったです。

マハ……アムステルダムのゴッホ美術館に行ったときに、ほんとは貸切が無理だったのに、あまりにも美しいミューズのような景子さんが「今日は拝見します」と入ったら、警備員の方がどうぞどうぞって(笑)。思いの外、自由に見せていただけたのは景子さんがいたから。そんな出来事もあって、私のなかに吹き込んだアートの美しい風のようなイメージが景子さんに残って、私の原作でご一緒できたらどんないいだろうと、つい口にせずにはいられなかったんです。

北川……口にすると引き寄せまることがありますよね。私もずっとオランダに行きたいと思っていたら、ゴッホの番組のオファーをいただきました。そのあと恐らくゴッホの番組を観た方が、今回の映画のお声をかけてくださったようで、「マハさんが原作の“キネマの神様”のお話がきてるよ」と事務所から聞いたときはとても驚きました。たくさんの偶然が重なって今回の出演が決まって、ゴッホの番組がいいご縁を繋いでくれたのかなと思っています。

マハ……景子さんとゴッホの旅をした前後のタイミングで、プロデューサーの方から送られてきた脚本の第一稿を読んだときに、「園子は北川景子で決まり!」と心の中で決めていたんですよ。キャストは監督をはじめ、みなさんにお任せしていましたが、園子の役が景子さんに決まったあと、「ここから気合いを入れてがんばりましょう」って意味も込めて、二人でゴッホの展覧会にも行きましたね。

北川……上野の美術館で待ち合わせてご一緒しましたね。映画『キネマの神様』はマハさんが書いたものを、山田洋次監督が何度も加筆や修正をされて、監督のエッセンスが散りばめられた脚本になっていました。銀幕のスター・桂園子という素敵な役を、マハさんの原作で演じられるなんてすごく嬉しくて、断る理由はひとつもなかったです。

技術的な部分以外で、雰囲気や佇まい、匂い立つもので、フェアリーなスター感を表現。

マハ……今回の出演にあたり、昨年の春に、山田洋次監督と景子さんの面接があったんですよね。

北川……そのときに衣装合わせもして、監督が大船撮影所で助監督をされていたときのお話を聞かせていただきました。「あの女優さん、すごく親切だったなあ」とか「合間にセットで待っているときも気さくで素敵だったなあ」とか、監督の話を伺ううちに、それぞれの女優さんたちの素敵なエッセンスが、園子という役に全部投影されているように感じられました。「私で大丈夫かな」という不安もありましたが、気負いすぎて萎縮してしまっても良くないですし、自分にしかできない園子を演じられたらいいなあと思いました。

マハ……景子さんの撮影が始まったとき、私はちょうどパリにいて、プロデューサーの方から景子さんがクランクインしたところを動画で送ってくださったんです。小津安二郎監督の映画に出てくる原節子さんのような楚々として美しい日本の大女優らしく、景子さんは堂々と演じられていた。ベテランが多い山田組のなかで、景子さんには迷いがあったり成長があったり、いろいろな経験をされたでしょうね。

北川……1960年代の映画界の時代背景は、最後まで難しかったです。いまはプロダクションに所属して、一番長く一緒にいるのがマネージャーという状況ですが、当時は監督とも顔見知りで、年に何本も映画を撮っていただくような関係性。女優さんが一緒に機材を運んだり、撮影現場まで山を登ったり、困難な撮影を一緒に乗り越えているからこその絆もあります。

マハ……昔の女優さんは、映画会社の看板を背負って、撮影所に所属している社員のような感じですものね。

北川……それでいて、観客からは手の届かない女神で、つい拝みたくなるような雲の上の存在でもあります。演技や台詞回しといった技術的な部分以外で、雰囲気や佇まい、匂い立つもので、フェアリーなスター感を表現しなくちゃいけない。見たこともない時代のスターを演じるために、一生懸命、イマジネーションを膨らませて、自分のリアルに落とし込むのは大変でした。

(映画『キネマの神様』公開記念/女優・北川景子さん×原田マハ対談 vol. 2につづく/構成・清水志保)

北川景子(きたがわ・けいこ)
1986年生まれ、兵庫県出身。2003年に女優デビュー。2006年「間宮兄弟」で映画初出演。近作に 「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」(19)「ドクター・デスの遺産BLACK FILE」(20)「約束のネバーランド」(20)「ファーストラヴ」(21)がある。

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