映画『キネマの神様』インタビュー/女優・寺島しのぶさん

2021.08.06
インタビュー

 デビュー以来、舞台やテレビドラマで活躍する女優・寺島しのぶさん。2003年に公開された映画『赤目四十八瀧心中未遂』と『ヴァイブレータ』で、第27回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞や東京国際映画祭女優賞を受賞、また日本人として35年ぶりにベルリン国際映画祭の最優秀女優賞である銀熊賞を受賞するなど、日本を代表する実力派俳優・寺島さんに、最新出演作『キネマの神様』を語っていただきました。
(写真/(C)2021「キネマの神様」製作委員会)

自分にもなにかできるんじゃないだろうかという健気さを表現した。

 映画『キネマの神様』の原作小説が刊行されたのは2008年。当時、寺島さんは本書を偶然、手にしていた。

「“キネマの神様”というタイトルに惹かれて、書店で手に取ったのがマハさんの小説でした。私もキネマが大好きですし、ちょうど私自身が、いい映画に出会って演じたいと思っていた時期だったんです。今回の映画の撮影が終わって、もう一度、マハさんの原作を読もうと思っていたら、マハさんが映画のノベライズを書かれていたので、原作もノベライズもどちらも読んでみようと思っています」

 日本国内外で10以上の受賞歴を誇る寺島さんだが、この『キネマの神様』が山田洋次監督との初めての仕事になった。

「大好きな作品が原作で、それも山田洋次監督が撮られるとなると、これはもうやるっきゃない! という感じでしたね。今回、山田組に新しく参加する俳優の方ばかりで、監督にとっても新しい挑戦だったと思うのですが、その監督のパワーには驚かされました」

 寺島さんが演じる円山歩は、自身も失業などの問題を抱えるシングルマザー。ギャンブル好きで借金まみれの父親・ゴウと向き合うなか、娘としての葛藤を抱えている。

(C)2021「キネマの神様」製作委員会

「ゴウはとてもチャーミングな人で、母親の淑子もつい甘やかしてここまできてしまって、人生が立ち行かなくなってきた。歩はゴウに、どうにかして自分の人生を立て直してほしい、自分の人生を生きてほしいと必死なんですよね。とにかく家族がばらばらにならないように一生懸命で、家族の柱のような存在だから、家族にきつく言うことも多いですが、ただ怒っているだけの存在ではなく、自分にもなにかできるんじゃないだろうかという健気さを表現しようと思いました」

 歩の一人息子・勇太は引きこもり気味で、歩と勇太との関係は良好とは言えないが、ゴウと勇太には不思議な連帯感がある。そんな二人の姿を見て、歩は母親としての戸惑いも感じていた。

「勇太にどうアプローチしていいのかわからずにいるのに、ゴウと勇太は仲が良い。歩は自分と勇太がうまくいかないのは自分のせいなのかなと思っていたりもする。私も自分の息子と照らし合わせても、息子がこうなっちゃったらどうするだろうといろいろ考えました」

どういう表現をするのが映画として的確なのか、とても迷いながらも拘ったシーン。

 ふだん物静かな淑子を説得し、依存症を学ぶセミナーにまで通うようになる歩。ふたりがセミナー帰りに歩道橋で語り合うシーンは、映像の美しさと相まってとても印象的だ。

「そのシーンの撮影が終わったあと、監督が“この夕焼けじゃいやだ、明日夕焼けがでたらもう一回撮りたい”と仰ったんです。雰囲気づくりから始まって、長時間かけて丁寧に映画をつくりあげる。監督はそんな古き良き時代の映画作りを知っていらっしゃる最後の方なんだと思いました。撮ったら終わりということに慣れすぎてしまっていて、もう一回その気持ちを湧き起こして同じモチベーションで台詞が言えるかというと、いまの俳優たちはなかなか言えないんですよね」

 八方塞がりだった歩一家だったが、ゴウが助監督時代に書いた脚本を、ゴウと勇太がリメイクしたことが転機となり、感動のラストに向けて畳みかけるように物語は進み出す。

(C)2021「キネマの神様」製作委員会

「監督に“歩はこの手紙を初めて開くんですか? それとももう何回か読んでいるのでしょうか?”と伺ったんです。私は初めて歩が読んだと思ったんですけど、“一回読んでるんだと思うんです”と監督は仰って、どういう表現をするのが映画として的確なのか、とても迷いながらも拘ったシーンです。映画で描かれていない裏側の話は、当然、お客さんには見えないわけですから、そのうえでなにを選択したら、歩の感情が一番伝わるのか深く考えました」

 撮影では山田洋次監督とどんなやりとりがあったのだろうか。

「なんとなく監督に投げかけて、監督がふらふらと仰ったことを自分なりに咀嚼して、“私はこれを選択します”というのを画面でお見せする。監督が納得してくださったらOKですし、うまく返ってこなかったらまた自分で考えます。いまの若い役者はどんどん山田洋次監督から沢山のことを感じ取って、映画界での監督の存在をずっと大切にしていきたいです。黒澤明監督、新藤兼人監督、市川崑監督が活躍されていたころの昔の映画づくりの現場に、どこでもドアがあったら行ってみたいなあと思ったりもしますが、この映画で少しは体験できたように感じています」

 脚本で過去パートを読まれ、若き日のゴウの姿を知りながら、現代パートの歩を演じることに難しさはなかったのか伺うと、「その場で感じることが全てだから」と軽やかに語る寺島さん。

「どなたが観ても安心してご覧になれる、とてもほっこりする映画です。“キネマの神様”であたたかい気分になっていただけたら嬉しいです」

寺島しのぶ(てらじま・しのぶ)
1972年12月28日生まれ、京都市出身。高校在学中にTVドラマ「詩城の旅人」で女優デビュー。荒戸源次郎監督の『赤目四十八瀧心中未遂』(03)と廣木隆一監督の『ヴァイブレータ』で国内外の映画賞の女優賞を数多く受賞し、若松孝二監督の『キャタピラー』(10)ではベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を獲得。平柳敦子監督の『OHLUCY!』(18)ではインディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされた。出演近作に『ヤクザと家族 The Family』『Arc』、待機作に『空白』がある。

(インタビュー・構成/清水志保)

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