<コロナに思う>ビデオメッセージ全文、一挙掲載

2020.05.12

 5月11日、テレビ東京「WBS (ワールドビジネスサテライト)」の「コロナに思う」コーナーに、原田マハがビデオメッセージ出演いたしました。
 放送されたビデオでは、お伝えしきれなかったメッセージ全文を、ご紹介いたします。
 メッセージ動画は、WBSの公式HPでご覧いただけます。

〈コロナに思う〉アートは人間の証

小説家の原田マハです。

私は2月20日から6週間、パリに滞在し、ロックダウンを体験しました。
2月28日、ロックダウンの2週間前に、ふと思い立ってルーブル美術館へ行きました。
10年まえに訪れた時、偶然みつけたルーブル最古の収蔵品、6千年前のメソポタミア時代の壺。その壺を、呼ばれるようにして見に行きました。
おおらかな形で、シンプルな模様がついています。当時は、アート作品とか、美術館などという概念はなかったでしょう。それでもこの壺を「いいね」と思う人がいて、以後、6千年という気の遠くなるような時の中を、この壺は守られ、伝えられ、今、ここで私たちの目の前にある。私は、壺を見つめながら、この壺が今に伝わる奇跡を思って、感動がふつふつと湧き上がってきました。

世界中でロックダウンが実行され、日本でも緊急事態宣言の状態が続いています。
医療崩壊を避け、人命を救うために、不自由な生活を余儀なくされている人々が世界中に何億人と存在しています。その人々のすべての心に寄り添っている、それが芸術文化、アートであると思います。

どこにも出かけられない状況の中で、私たちは音楽を聴き、画集をめくり、物語を読み、映画を楽しみ、芝居やコンサートやダンスの動画を見て、バーチャル美術館の展示を体験しています。これらの芸術文化の存在に、私たちはどれほど助けられていることでしょう。

想像してみてください。音楽や映画や本やアートがない生活を、私たちは楽しく送ることができるでしょうか。
芸術文化は、決して不要不急のものではなく、私たちが人間らしい感性と暮らしを維持するために、今だからこそ、必要なものなのです。

ドイツの文化大臣が言いました。「芸術文化は私たちにとって生命維持のために必要不可欠だ」と。私は、この言葉が、全世界の芸術家、クリエイター、そしてその活動を支えるすべての人たちに向けて発信されたものだと思います。

活動を休止せざるを得ない芸術文化関係者は、今はじっと耐えて、もう一度皆さんへ最高の芸術を届ける日が来るまで力を溜めています。
私たちの生命維持に必要な存在である彼らのために、政府が積極的な支援をすぐに行うことを期待します。

メソポタミアの壺は、6千年ものあいだ、戦争、飢饉、疫病、様々な困難を乗り越えて、人類が守り抜き、伝えてきたものです。
私たち人類は、歴史が始まって以来、アートを忘れたことは一度たりともありません。
アートは人間の証明であり、人類の強さの証です。

このコロナ危機を乗り越えて、私たちはきっと、アートを次の世代に伝えていく。
そう信じています。

(2020年5月11日 ニュース番組『ワールド・ビジネス・サテライト』にて放映)

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